大志とともに  -自閉症子育て日記-
    第8回 脱走癖

 わが家は1階にママの父母、2階にわが家親子4人が住む二世帯住宅である。大志にとっては1階だろうが2階だろうが家のどこでも遊び場なので、こっちは1階にいなければ2階にいるだろうと思い、2階にいなければ1階にいるだろうと思ってしまう。しばらく大志の声や音がしないと、どっちからともなく「大志いだが」と声をかけ、玄関にくつがない、ということになった。手分けして、大志を探しに行くことがたびたびだった。
 ただ、たいていは、近所の公園にいた。水が止められた噴水の一番下の水たまりで水ポチャをやっていたので、すぐ見つかった。そこにいなくても、昼に散歩したときにあの場所が心残りだったようだ、などと見当がついた。
 一度だけ警察の保護になりそうになったことがある。夜8時頃にママが1階にいるはずの大志を寝かせるために迎えに行ったらいない。「大志が脱走した!」。すぐに水ポチャの場所に行ったがいない。あたりは暗い。公園からさらに先のスーパーの前にまわったら、薄暗い中、道ばたで赤いランプが回っていた。もしやと、急ぎ足で近づくと、人が数人集まっている中で、大志をだっこしたお巡りさんが、まさに今パトカーに乗せようとしていたところだった。
 警察に連絡した親子連れの話では、大志が車道の真ん中を歩いているところを見かけて、危ないと思って保護したとのことだった。昼にママが大志と散歩したときに、センターラインの上を歩きたがったがやめさせたという。私も、大志がセンターラインを歩きたがったときに、力づくでとめたことがあった。とめられた大志はパニックを起こして、歩道の上に寝転がった。
 その日の大志は、センターラインの上を歩くために脱走したのだった。近所ではそれほど車が多くはないとはいえ、冷や汗ものだった。
 あとで聞いた話では、そのときのお巡りさんも自閉症を持つ子どものお父さんだったらしい。親が必死で捜しているだろうとわざと赤ランプを点灯していたそうだ。

 ちなみに、子どもの目線では“脱走”ではなく“冒険”だそうです。




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